2024年7月期ドラマが続々と始まりましたね。
なかでも注目したいのは、6年ぶりの続編となるブラックペアン2。
前作の渡海先生が衝撃だっただけに、初めは「え、渡海先生じゃないの??」と少々残念な気持ちを抱きつつ鑑賞した第1話。
個人的な感想はそこそこに、オペ室ナース7年目の視点でドラマ解説していきます。
世良先生、挿管する
まずは急変患者の気管挿管をする緊迫したシーンから。
なかなか挿管できずにいた研修医に代わって、世良先生がスムーズに挿管していました。
前作ではこの研修医の立ち位置にいた世良先生が、前作の渡海先生の立ち位置になって急変対応する…。
対比した演出がなんとも絶妙で、世良先生の成長ぶりが一発で感じられる場面でした。
ちなみに世良先生が3年、外部の系列病院で経験を積んだというナレーションとともに、執刀医に叱責されながら助手を務めるシーンがありました。
これは実際の現場でもよく見られる光景で、やけにリアルで既視感を持った場面です。
この場面に立ち会うと看護師としては非常に気まずく、精いっぱい聞こえないふりをします。
そして怒りの矛先がこちらに向かないよう、最大限努力します。
溺れた少年の初期対応
ビーチで少年が溺れたという場面に駆けつけた世良先生と垣谷先生。
世良先生は心臓マッサージ(心マ)を交代し、垣谷先生は人工呼吸をしようとします。
医療ドラマではテンポが早くて不自然な心マをしばしば目にしますが、ブラックペアンはそこも臨床に忠実で、さすがと言うしかありません。
頸部が腫脹していることから、最初に世良先生は何かに刺されたアナフィラキシーショックを疑い、AEDを取りに走ります。
垣谷先生は、人工呼吸で上手く肺が膨らまないため、気管に穴を開けようとボールペンを振りかざし刺そうとします。
その手を止め、登場する天城先生が一言。
「これ、心タンポナーデじゃね?」
手術現場のことは多少理解できても、救急医療に関しては素人の筆者からするとなんのこっちゃというこの場面。
監修ドクターの山岸俊介氏による解説を拝読し、理解しました。
天城先生は少年のヒダリ胸(乳首の下あたり)の水着に穴が開いてアザがあること・近くにあるサーフボード・少年の顔面と頸部がうっ血していることから、外傷性心タンポナーデと判断したとのこと。
心タンポナーデは、心嚢内に溜まった血液で心臓が拍動できなくなる状態を言います。
溜まった血液をどうにかして除去できれば、心臓はまた動けるようになります。
そこで垣谷先生が行ったのが、ヒダリ第5肋間から心膜へアプローチ、切開して血液を排出するという処置です。
ヒダリ第5肋間は心尖部に最も近く、逆に言うと心臓が最も体表に近くなるところが第5肋間となります。
そこからハサミを入れると容易に心膜へ辿り着くことができるということですね。
これを瞬時に判断した天城先生はもちろん、限られた医療材料で処置した垣谷先生と世良先生。
理屈はわかっても、こんな場面を現実に目撃したら、間違いなくその先生に惚れます。
ダイレクトアナストモーシスとはどんな手術?
患者は韓国の研修医ミンジェの母親ソヒョン(演じるのはチェ・ジウ!)。
ソヒョンの疾患、虚血性心筋症に対し唯一の治療法とされる術式が、ダイレクトアナストモーシスです。
通常、冠動脈疾患に対して行われるのは、冠動脈バイパス術(CABGと言います)です。
これは、狭窄するなどして血流が滞った冠動脈に、別の血管(グラフト)をバイパスして血流を保つ術式になります。
グラフトは主に以下の4つです。
- 内胸動脈(胸骨の裏側に左右1本ずつ走る血管)
- 大状在静脈(大腿にある血管で、サフェナとも言います)
- 橈骨動脈(腕の血管)
- 胃大網動脈(胃の動脈)
ソヒョンの場合は、これらの代替となる血管が閉塞していたり動脈硬化していたりで、バイパスできるグラフトがなかったのです。
そこで狭窄している部分だけを取り除き、内胸動脈の一部を切り取ってまるごと置き換えるというダイレクトアナストモーシスが選択されました。
ソヒョンは内胸動脈の起始部が閉塞しているため、バイパスはできません。
しかし、起始部以外は問題なくグラフトとして使用できます。
天城先生の言う通り、ダイレクトアナストモーシスが世界一シンプルで難しいとする理由は2点あります。
- 狭窄などの病変部位をピンポイントで見つけるのは難しい
- CABGはグラフトと吻合する部分の冠動脈表面だけを露出させればよいのに対し、ダイレクトアナストモーシスは狭窄した部分を全周性に剥離(完全に心臓から剥がす)する必要がある
冠動脈は心臓にピッタリ貼り付いています。
そこから狭窄した部分を見つけ出し、完全に露出させる…しかもオフポンプで!世良先生のナレーションの通り、冠動脈周囲には脆い心筋があり、容易に裂けて心臓は破裂します。
そのリスクのなか心臓が動いたまま血管を露出させるというのは、想像しただけで難しそう…。
2mmの血管を5分で吻合するというのも驚きですが、天城先生の手技はとにかく速い。
速すぎる。
監修ドクター山岸氏の解説によると、内胸動脈を採取するのに速い医師は10分かからないとのことですが、筆者が勤める病院の医師は1時間程かかっております。
この1時間をその先の手技の準備時間や、ちょっと一息つける時間としている筆者としては、速すぎると辛いなあという感想を抱いてしまうのでした。
髪の毛より細いとされる8-0の針糸も曲者です。
ドラマでは演出上、映るように太めの糸が使用されているようですが、実際の8-0は鼻息で飛ぶレベルの細さです。
術中はマスクをしているので鼻息で飛ぶことはないのですが。
一度見失うと見つけることは難しく、諦めて針糸の紛失でインシデントを書くしかありません。
そんな繊細な針糸を容易く扱う天城先生。
何やら渡海先生とも繋がりがあるのか?ストーリー展開とともに今後の手術シーンにも注目していきます。
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