Q.カニュレーションってなに?

Q&A

心臓血管外科手術の器械だしで避けては通れないのがカニュレーション。

「2本脱血?ベント?…???」と初めて聞く単語も多いですよね。

この記事ではカニュレーションで用いられる用語や医療材料を解説していきます。

A.人工心肺を回すための回路を患者さんの身体につなげること

「カニューレ」という単語はみなさんも耳にしたことがあるかと思います。

これは気道確保や液体の注入・排出を行うための医療用カテーテルのことです。

例えば、気管に挿入するものは気管カニューレ。

気管切開後の気道確保、気道内分泌物の吸引などのために使用されます。

静脈カニューレは点滴や薬剤の投与のために静脈に挿入されます。

カニューレは柔軟なものや硬いものがあり、用途に応じて様々な種類があります。

心臓血管外科手術で用いられるカニューレは、心臓や血管に挿入して使用します。

カニュレーションとは、心臓や血管にカニューレを挿入し、人工心肺の回路とつなげる一連の手技のことを指します。

ちなみに人工心肺を回し、心臓を止めて行う手術を「オンポンプ手術」、人工心肺を回さず心臓を動かしたまま行う手術を「オフポンプ手術」と言います。

以降、人工心肺のことをポンプと呼称していきます。

上行送血とは

心臓血管外科手術で用いるカニューレのひとつである、送血管を大動脈に挿入することを意味します。

そうすることでポンプから酸素化された血液を、心臓の代わりに全身へ送れるようになります。

大動脈は部位によって胸部大動脈・腹部大動脈と名称が変わりますが、胸部大動脈はさらに名称が3種類に分けられています。

  • 上行大動脈
  • 弓部大動脈
  • 下行大動脈

このうち、上行大動脈に送血管を挿入するから上行送血。

順行性(生理的な血液の流れ)に沿った、最も望ましい送血方法です。

Ao(アオルタ=大動脈)送血とも言います。

腋窩送血とは

腋窩動脈に送血管を挿入することを意味します。

上行送血が困難な場合に選択されます。

上行送血が困難な場合とは、主に下記の3つが挙げられます。

  • 大動脈に高度な石灰化がみられる
  • 大動脈が解離している
  • 大動脈に拡張性病変がある

石灰化しているところに送血管を挿入すると、石灰化した部分が剥がれ肺動脈や脳動脈に飛んで塞栓を起こし、大変危険です。

そのため、事前の検査で大動脈の石灰化が疑われる場合は、開胸した後で直接エコー検査を行ない大動脈の状態を確認することもあります。

大動脈に解離がある状態で送血管を挿入すると、誤って真腔ではなく偽腔に入ってしまう可能性があります。

解離の状態によっては生命の危険が伴っており、早く確実にポンプを回す必要があるため、上行送血は選択されないことが多いです。

大動脈に拡張性病変があるとは、瘤がある場合のことを言います。

この状態で送血管を挿入すると、瘤が破裂して大出血したり、正しい位置への挿入が難しくなったりします。

また、瘤がある部分の動脈壁は、正常なものより薄く脆くなっていることが多いです。

そのため、動脈壁の損傷リスクも考えられます。

以上の理由で腋窩送血は選択されますが、腋窩動脈だけでは充分な送血ができないため、ほとんどは次に説明する大腿送血と併用されます。

ちなみに、腋窩動脈は英語でaxillary arteryとなり、Ax(アキシラ)送血とも言います。

大腿送血とは

大腿動脈に送血管を挿入することを意味します。

腋窩送血と同様、上行送血が困難な場合に選択されます。

最も特徴的なのは、必ずセルジンガー法(パンクチャーとも言います)を用いての挿入になること。

セルジンガー法については後述します。

大腿動脈は英語でfamoral arteryとなり、FA(エフエー)送血とも言います。

2本脱血とは

送血管に続き、心臓血管外科手術で用いるふたつめのカニューレが脱血管です。

これをSVC・IVCそれぞれに挿入することを2本脱血と言います。

SVCとは上大静脈、IVCとは下大静脈のことです。

脱血管の挿入部位として第一選択になります。

また、右心房からIVCのみに脱血管を挿入してポンプを回すこともあり、これを1本脱血と言います。

患者さんの全身状態にもよりますが、CABGだけ、AVRだけのような右房を開けない手術の場合に1本脱血を選択することが多いです。

大腿脱血とは

大腿静脈から右心房または下大静脈付近にまで到達する脱血管を挿入します。

そのため、脱血管の長さは60cm程にもなります。

そこで注意すべきは、うっかり不潔にしてしまわないこと。

長さがあると飛び跳ねて無影灯に当ててしまったり、清潔野からはみ出て付近の電気メス本体に触れてしまったり…。

取り扱いが難しく、管理に注意が必要です。

大腿脱血は2本脱血とは違い、Ax送血・FA送血と組み合わせると開胸せずにポンプを回すことができます。

大動脈解離など、開胸よりも先にとにかく早くポンプを回したい時や、MICS(右小開胸手術)時に選択されます。

挿入方法は大腿送血と同様、セルジンガー法です。

大腿静脈を英語でfemoral veinということから、FV(エフブイ)脱血とも言います。

セルジンガー法について

通常のカットダウン(切開してそのまま挿入する方法)とは異なり、穿刺→ガイドワイヤー挿入→ダイレーター挿入→カニューレ挿入という手順を踏んで行われる挿入方法です。

カットダウンは早いことがメリットですが、偽腔に入る危険や石灰化した部分が飛んで塞栓になるデメリットがあります。

そのため、これらのデメリットを回避し、確実に真腔にカニューレを挿入したいときに用いるのがセルジンガー法です。

行程が多いぶん時間がかかるため、カットダウンではリスクが高い場合に選択されます。

当然のようにカットダウンでいくと思っていた場合でも、血管の性状によって急遽セルジンガーに変更となることがあり、要注意です。

送血・脱血までのまとめ

カニュレーションとは人工心肺を回すための回路を患者さんの身体につなげること。

送血管を挿入し、ポンプが心臓の代わりに患者さんの全身へ酸素化した血液を送ってくれます。

送血管の挿入部位は以下の3つです。

  • 上行(Ao)送血
  • 腋窩(Ax)送血
  • 大腿(FA)送血

第一選択は上行送血ですが、困難な場合に腋窩・大腿送血を行ないます。

困難な場合とは以下の3つです。

  • 大動脈に高度な石灰化がみられる
  • 大動脈が解離している(急いでポンプを回したい)
  • 大動脈に拡張性病変(瘤)がある

一方、脱血管はポンプが心臓の代わりに静脈血を回収するために挿入します。

脱血管の挿入部位は以下の3パターンです。

  • SVC、IVCの2本脱血
  • 右心房からIVCへ挿入する1本脱血
  • 大腿(FV)脱血

2本脱血が第一選択ですが、右房を開けないCABGやAVRのときは1本脱血が選択される場合があります。

FV脱血は開胸より先にポンプを回したい緊急手術のときや、MICS(右小開胸手術)のときに選択されます。

カニューレの挿入方法は2種類あります。

  • カットダウン(切開してそのままカニューレを挿入する)
  • セルジンガー法(穿刺→ガイドワイヤー挿入→ダイレーター挿入の行程の後にカニューレを挿入する)

基本はカットダウンですが、時間や手間をかけてでも確実に真腔へカニューレを挿入したい場合に、セルジンガー法が選択されます。

以上がカニュレーションで用いられる用語の解説になります。

続いて医療材料について解説していきます。

カニュレーションでは送血管・脱血管の他にも多くの医療材料が登場します。

ここでご紹介するのは次の4つです。

  • アンテ針(ルートベント)
  • ベント
  • レトロ
  • セレクティブ

アンテ針(ルートベント)とは

心臓を止めて手術をするためには、心筋保護液を定期的に灌流させなくてはいけません。

心筋が壊死してしまうからです。

その心筋保護液を流すためのカニューラがアンテ針となります。

上行大動脈に挿入し、順行性(=アンテ)に心筋保護液を流すからアンテ針と言うわけです。

心筋保護液のことをCP(シーピー)と言い、順行性心筋保護液をACP(エーシーピー)と呼びます。

ベントとは

上肺静脈から挿入し、心内に溜まった血液や心筋保護液を回収する役割を持ったカニューラです。

LAベントとLVベントの2種類があり、心内のどこに挿入したいかで使い分けます。

例えばAVRの場合、大動脈弁の操作ということで左心室にLVベントを挿入します。

また、僧帽弁の操作をしたい場合は、左房からのアプローチになるため、左心房にLAベントを挿入します。

つまり心臓は4つの部屋に分かれていますので、操作したい弁がある一つ手前の部屋にカニューラを挿入して術野を確保するのです。

どちらを使用するのか、器械だし看護師は解剖図を頭に浮かべながら判断しなくてはいけないのです。

レトロとは

心筋保護液を逆行性に灌流させるカニューラになります。

手術中、「レトロ行って〜」と医師がCEに伝えている場面に遭遇したことはありませんか?これはレトロ=逆行性にCPを流してほしいという指示になります。

右心房から冠静脈洞(CS=コロナリーサイナス)に挿入します。

CSに固定されるよう、先端にバルーンがついていることが特徴です。

稀にこのバルーンと一緒に右心房を縫合してしまい、バルーンが破損して戻ってきたなんていうことも…。

セレクティブとは

アンテ針同様、順行性にCPを流す際に使用します。

大動脈に石灰化があり、アンテ針が立てられないという場合に、直接左右の冠動脈入り口に挿入します。

医療材料まとめ

ポンプを回している間は、心筋を保護するCPを定期的に流す必要があります。

CPを流すカニューラは次の3つです。

  • アンテ針とセレクティブ:順行性にCPを流すカニューラで、大動脈に挿入するのがアンテ針。大動脈の石灰化があり、アンテ針が立てられない場合に選択されるのがセレクティブです。
  • レトロ:逆行性にCPを流すカニューラで、CSに固定するバルーンがついています。

どれを選択するのかは術式や石灰化の有無で変わってきます。

いかがでしたか?心臓血管外科の手術は覚えることが膨大で、どこから手をつければいいのか迷いますよね。

まずはわからない単語を調べ、使用する医療材料にどのような目的があるのか学習していきましょう。

そうすると自然と解剖図も頭に入ってきて、より理解が深まるはずです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました